比喩のページ

天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

これは、万葉集巻七(1068番)の歌で、「柿本人麻呂の歌集に出ている」と書かれている。
大学の卒論で、柿本人麻呂について書いたが、その縁でこの歌に出会った。
歌の典雅さとか完成度はともかく、天=海、雲=波、月=舟、星=林と比喩の組み合わせも徹底していて実に分かりやすい。

比喩は面白い!

大学を卒業してから、いろいろな小説を読んでいるうちに比喩が気になりだした。特に、新感覚派の比喩表現。そして、最近の作家では、村上春樹の比喩(これは比喩部分の長さという点では群を抜いている)が面白い。
そして、少しずつだが、比喩を集め始めた。とりあえず、見た目に明らかな“直喩”から。直喩は、「・・・のような」「・・・のごとく」というのがついているもの。

比喩MEMO

1「山焼の火は、だんだん水のように流れて広がり」(宮沢賢治『よだかの星』)
滑らかに燃え広がっていく山焼の火の感じが鮮やか。逆に、水が火に喩えられることもある。

2「闇が夜の水のように小人の体を青く染めていた。」(村上春樹『踊る人』)
同じ水でも、闇と結んで色合いを醸し出す例。村上春樹は凝っている。

3「落下する小石のように睡眠に落ちた。」(黒井千次『戦中派』)
眠りに落ちることを表す比喩は結構ある。たとえば、

4「眼を閉じると、眠りは暗い網のように音もなく頭上から舞い下りてきた。」(村上春樹『ファミリー・アフェア』)
これは、上の比喩がすっと眠りに落ちる感じを表すのに対して、こちらは静かな眠りに絡め取られる感じが出ている。

5「突然ぽっかりと空いた穴に似た時間を埋めるには・・・・」(黒井千次『バッグの中身』)
時間も比喩の対象になりやすい。次の比喩も凄い。

6「時間は魚の腹に飲み込まれた鉛の重りのように暗く鈍重だった。」(村上春樹『パン屋再襲撃』)

7「車のヘッドライトが鮮やかな光の川となって、街から街へと流れていた。さざまな音が交じり合ったやわらかなうなりが、まるで雲のように街の上に浮かんでいた。」(村上春樹『蛍』)
比喩が行き着くところ、聴覚的なもの(音)まで視覚的なもの(雲)に喩えられるのか。でも、なんとなく分かるような気がするのが不思議。ちなみに「ヘッドライト・・・光の川」は、隠喩。

8「たえ間なくふりそそぐ この雪のように 君を愛せばよかった 
  窓にふりそそぐ この雪のように 二人の愛は流れた
」(チューリップ「サボテンの花」)
雪の持つ二面性(あとからあとから無限にふりそそぐ雪・地面に落ちるとたちまち溶けてしまう雪)が恋の二面性(永遠性・有限性)を表した、見事な比喩と言える。

9直喩じゃあないけど・・・・・面白いので、紹介します。
 「なぜ人は傷つけ合うの しあわせに小石を投げて」「やさしさは 見えない 翼ね」「愛し合う人はだれでも   飛び方を知ってるものよ 青空から舞い降りたら やさしく抱きしめて」(松本隆作詞、細野晴臣「風の谷のナ  ウシカ」)「幸せに小石を投げる」「やさしさは見えない翼」ってところ。感覚の鋭さ気に入っている。松本隆や  細野晴臣はJONJON世代には懐かしい。
 

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