蟯虫の特徴・実験への影響

蟯虫の形態


↑テープ法で検出されたS.muris虫卵



←雌成虫(A〜C)・虫卵(D〜F)

 (1)頚翼 (2)陰門(産卵孔) (3)虫卵(子宮)

  A, D: ネズミ盲腸蟯虫(Syphacia obvelata)
  B, E: Syphacia muris
  C, F: ネズミ大腸蟯虫(Aspiculuris tetraptera)

 糞便検査での虫卵観察時には、光学顕微鏡と接眼ミクロメーターが必須。虫卵の鑑別のために必ず大きさを測定すること。

蟯虫の特徴

 

ネズミ盲腸蟯虫
(Syphacia obvelata)
"シファキア・オベラータ"

Syphacia muris
"シファキア・ムリス"

ネズミ大腸蟯虫
(Aspiculuris tetraptera)
"アスピクルリス・テトラプテラ"

寄生
部位

マウスの盲腸

ラットの盲腸

マウスの結腸起始部

体長

♂1〜2mm ♀3〜6mm

♂約1mm ♀3〜4mm

♂2〜2.6mm ♀2.6〜4.7mm

形態

頭部膨大部なし、頸翼なし、尾部細長く尖る。陰門は体の前端から約1/6〜1/7の位置。

頭部膨大部なし、頸翼なし、尾部細長く尖る。陰門は体の前端から約1/4の位置。

頭部膨大部あり頸翼あり尾部はSyphacia属ほど尖らない。陰門は体の前端から約1/3の位置。

虫卵

120〜140×30〜50mm
細長く左右非対称で、「柿の種」様。

72〜82×26〜36mm
「柿の種」様だが、左右非対称はS. obvelataほど顕著でない。

83〜93×38〜43mm
紡錘形で、非対称性は不明確。

 蟯虫は一般に宿主特異性が高い。ヒトの蟯虫はEnterobius vermicularis (エンテロビウス・ヴェルミクラリス)であり、マウス・ラットの蟯虫とは異なるので、実験者や飼育担当者自身の蟯虫駆除はマウス・ラットには無関係である。(むろんヒトの蟯虫駆除はした方がよい。)

蟯虫の生活環と日周活動リズム


   

ネズミ盲腸蟯虫
(Syphacia obvelata)

Syphacia muris

ネズミ大腸蟯虫
(Aspiculuris tetraptera)

生活環

感染後11日目に♀成虫は肛門へ移動し、肛門周囲に産卵後死亡。産卵後5〜20時間で虫卵は感染可能。

感染後7〜8日目に♀成虫は肛門へ移動し、肛門周囲に産卵後死亡。産卵後5〜20時間で虫卵は感染可能.

感染後23日目から♀成虫は腸管内で断続的に産卵。寿命は45〜50日。産卵後6日で虫卵は感染可能。

日周リズム(*)

産卵は午後の早い時間に多い。

産卵は午後の早い時間に多い。

産卵は夕方〜早朝。

 *) 通常の12または14時間照明条件下。

蟯虫の感染状況

 最近の国内のマウス・ラットの蟯虫感染状況については数は少ないが、下記の報告がある。外国の感染例が多く報告されているので「外国のほうが汚ない」と単純に思う人もいるが、国内の状況を調べてから比べなくてはいけない。蟯虫を定期検査の対象にしておらず、感染に気付いていないケースもかなりあるだろう、という印象を持っている。

実験への影響

 このように実験への影響は以前から報告されている。
 ICLASモニタリングセンターでは、病原体のランクのカテゴリーE(通常は病原性なく、飼育環境の微生物統御の判断する指標に有用な微生物)に分類している。来年度の見直し案では「ぎょう虫」としてカテゴリーCとEを並記しているが、蟯虫のうちどの種がCで、どれがEなのかは不明である(高倉 (2000): アニテックス, 12(4): 157-161)。
 一方、『大学動物実験施設の実験動物の微生物モニタリングの指針』ではカテゴリーC(動物を致死させる力は無いが、発病の可能性があり発病しなくても生理機能を変化させる恐れがある病原体)か、カテゴリーD(通常は発病しないが、実験処理いかんでは病気を誘発させる恐れがある病原体)とされている。私はカテゴリーCかDが妥当と考える。
 なお、前述のカテゴリーの一覧表では細菌は二名法で記されているのに比べ、寄生虫は総称として揚げられており、相変わらず個々の寄生虫種についての認識が低いと思われるのが残念である。

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