2000.7.27 巌城 隆(2003.5.24 改変)
マウスやラットの蟯虫は近年、疾患モデル動物や遺伝子改変動物の頻繁な移動に伴い、検出機会が増えています。更に一般に蟯虫は非病原性と考えられ、積極的な検査や駆除がなされなかったと思われます。
「病原性」は個々の実験への影響として判断すべきであり、実験者は非病原性とされる微生物の感染に関心を持つべきです。実験に支障があれば、早めに駆虫するのが実験者や飼育者の務めです。ここでは、そのための情報を提供します。
寄生虫は細菌やウイルスとは性質が違うので、同じ対策で駆除できない事はよく見逃されていました。更に「検査・駆虫・再感染防止」の3つをうまく行なわ ないと再発の危険があります。初めてこのWebページを作成した頃には、全飼育・実験施設に子宮切除術・胚移植の技術があるとは限らず、費用や時間の面か ら駆虫を勧めていました。現在は技術が普及し、それらによる清浄化も選択可能ですが、駆虫と同じく検査や再感染防止対策には注意しなくてはなりません。
残念ながら、日本の実験動物関係者には寄生虫学を扱っている人はほとんどなく、書籍にも寄生虫の新しい情報が少ないので、外国の文献を中心に整理しました。英語は苦手という飼育現場の方々にも読んでいただきたいと思います。
病気の発生を隠し、「口外するのは恥」と言う動物施設の教官が居るのには驚きました。隠蔽はかえって病気の拡大を招き、自己流の対策による再発など、い つまでも問題の解決になりません。(これを書いている現在、大問題となっているSARS[重症急性呼吸器症候群]で言われたとおりです。) 事実を把握 し、状況や知見をオープンにして関係者全員で解決に持って行くべきです。
寄生虫感染ではありませんが、東北大学大学院医学系研究科・附属動物実験施設の『マウス肝炎ウイルス感染事故 〜147日間の記録〜』を読みました。感 染事故対策マニュアルではなく、詳細な記録なのでかえって切実さが伝わります。この中には「感染事故情報は動物の授受に際しては最重要な情報である。これ らの情報を的確にシステマチックに関係機関に伝える方法が必要なときが来ていると思われる」(p.78)とあり、まさに同感です。情報を公開された笠井先 生ならびに動物施設の皆さんに敬意を表します。
最後に、蟯虫問題に手を付けたのは元同僚の久保氏のおかげです。それまでは私も「蟯虫のコントロールは難しい」と思い込んでいましたので、きっかけを与えていただいた久保氏に感謝しています。
このページの内容は2000年5月、徳島での実験動物技術者フォーラムの発表を基にしたものです。他の演者の報告と併せてお読みください。
※ 2013.4.1追記 現在の所属は,公益財団法人 目黒寄生虫館です。(連絡先: )
参考文献 (PDFファイルにリンクしています)
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